ある日の午後を物語風に綴る

午後。二時すぎ。
予約の方がもう既に4人は来ていた。うち二人は血液・尿・CT・胸XPなど検査予定だ。
二時半になり、カルテを診察室に回すと、担当医が隣の部屋で診療する医師に何やら話を持ちかけた。
自分にはおおよそ関係のないことだと思い、受付に戻る。
その5分後、同じくカルテを持っていた同僚からこんな話を聞いた。


「…今日循環器科先生診察せんのやって」
「…は?」
「なんか救急車で転院する人に着いて行くとかなんとか」


今日は診察日の中でも特に予約の人の多い3週目の金曜日だ。
確か四時半ごろまでびっちりと予約表には名前が書かれてあった。


それが、……診察しない?


「全部内科の方で見るんやって」


内科の方だってもちろん二時半から予約の人が入っている。
しかも今日はもう一人の医師は施設に定期往診に行って、応援できる者は誰も居ない。
検査をして、その所見を書き、更に患者さんへの説明までを総て一人でこなさなければならないのだ。
愕然とした。
そんなのどう考えたって無理だと。自分がするわけでもないのに。


時計の針は容赦なく進む。
しかしカルテは一向に、一冊として返ってこなかった。
例え循環器科の医師が二時半にここを出ていっていたとしても、最低でも三時すぎまでは戻ってこないだろう。
気持ちだけが急いた。
―――その時、遠くからけたたましいサイレンが聞こえてきた。
同時に病棟から内線がかかってくる。


「今から患者さん搬送するんで、玄関開けてください」


今から!?
今からってもう、三時二十五分!!
確実に病院へ帰ってくるのは四時過ぎ!!!
途絶え途絶えに戻ってくるカルテの中に、検査をされた人の物はひとつもない。
逆に、長い待ち時間に耐えられなくなって薬だけにしてくれと言い出す人が多くなっていた。
それはそうだ。自分だって二時半予約で来たのに四時手前になっても名前が呼ばれなければイライラを通り越して帰りたくもなって来るだろう。
それでも患者さんはひたすら待っていた。
次に自分の名前が呼ばれることを、信じて。


午後四時五分。
俄かに受付の前の待合室がにぎやかになってきた。
診察室前に居た人たちが、診療を終えてこちらに戻ってきたのだ。
この人数―――ということは、先生が帰ってきたのか?
思う間もなく、一気に三冊ずつ戻ってくるカルテ。
そこからは時間との闘いだった。
ひたすら内容を入力し、ひたすら処方箋を渡した。
レジのお金を併せる時間さえも惜しんで。
待ちくたびれた患者さんを、更に待たせるわけにはいかない。
施設の往診も終わったのか、気が付けばそこの看護師が目の前に立っていた。
しかし今は何よりも一番に、ずっと待っていた人達を優先に―――!!


気が付けば、もう五時をとっくに過ぎていた。
闘いが終わった後の机の上には、何を記したか解らないメモと、訪ねて来たセールスマンの名刺と、疲労感が散乱していた。


パソコンの電源を落としながら、ひとつ、大きく伸びをした。
今日の忙しさは一体なんだったのだろう。どうしてこんなことになったのだろう。
内科の先生は突然全員任されて、よくキレなかったな。
いろいろな思いが巡ったが。
今はもう、なにもかも忘れてゆっくり休みたい。


お疲れ、自分。
お疲れ、先生。
お疲れ、患者さん。


もう二度と、振り回されることが、ありませんように。





長い!!!w